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福岡地方裁判所 昭和37年(行)15号 判決

福岡市比恵本町三丁目二七七番地

原告

平井嘉一

右訴訟代理人弁護士

吉野作馬

被告

右代表者

法務大臣 高橋等

福岡市浜の町福岡法務局内

右指定代理人検事

高橋正

法務事務官 国武格

福岡市城内二番六号福岡国税局内

国税訟務官 山本保美

大蔵事務官 平田松雄

右当事者間の昭和三七年(行)第一五号国税賦課処分無効確認等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告は「原告に対し金四九万二、七五〇円及びこれに対する昭和三七年一〇月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、

第一次的に、

一、原告は訴外福岡国税局長が原告に対し昭和三三年一一月一三日付なした通告処分ならびに訴外博多税務署長が原告に対し同月一九日なした物品税賦課決定(同月二四日付納税告知)に基き、昭和三四年八月頃までに、物品税金四二万四、〇六〇円、利子税金二万一、六七〇円、延滞加算税金二万〇、二八〇円及び罰金相当額金二万六、八〇〇円合計金四九万二、八一〇円を納付した。

二、しかしながら右通告処分ならびに課税処分には左のとおり重大且つ明白な瑕疵があり、無効の処分であるから、原告には右金員の納付義務なく、被告は法律上の原因なくして原告の損失において同額の利益を受け現に受けているのでこれが返還を求める。すなわち訴外福岡国税局長ならびに博多税務署長は原告が昭和三二年四月から昭和三三年八月までの間に日本冷蔵株式会社の注文により製造移出した氷三貫匁入氷冷蔵器三六九個を物品税課税対象品であると認定して前記各処分をしたのであるが、原告が右期間に日本冷蔵株式会社の注文により製造移出した三貫匁入氷冷蔵器はいずれも容積一二立方尺を超える非課税品であり、このことは原告が製造移出した現物を調査実測すれば容易に判明することであるのに、福岡国税局長は、同局係官が充分なる調査をすることなく漫然他人の製造販売した製品を原告の製品なりと認定し、また原告及びその子訴外平井政信を脅迫して作成した全く任意性のない原告及び同訴外人に対する質問てん末書をもとに本件通告処分をなし、博多税務署長も右調査結果に基いて本件課税処分をなしたものであるから前記各処分の瑕疵は重大且つ明白である。

と述べ、第二次的に

右の如き事情であるから仮りに不当利得返還請求が認められないとしても被告は原告に対し国家賠償法第一条第一項の規定により原告の蒙つた前記納付金額と同額の損害を賠償する責任がある。

と述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、第一次的請求原因一の事実は認める、二及び第二次的請求原因は争うと述べ、これに対する答弁ならびに被告の主張として、

一、原告は昭和三一年四月から「三葉工業所」なる名称を用いて氷冷蔵器等の製造販売を業としているものっあるが、昭和三二年四月から昭和三三年八月までの間に訴外日本冷蔵株式会社の注文により別紙(一)記載の規格の氷冷蔵器三六九個を製造移出した。

二、右の製品はその容積が一二立方尺未満であるから昭和三四年法律第一五〇号による改正前の物品税法第一条、同施行規則第一条、同規則別表丁類第二〇号により物品税の課税対象品であるのに、原告は、九州地方に普通用いられる氷三貫匁入氷冷蔵器が東京地方のそれと異り容積一二立方尺を超える非課税品であり、原告が従来製造していた三貫匁入氷冷蔵器も、右訴外会社に納入しない三貫匁入氷冷蔵器もいずれも九州規格の非課税品であつたことから、この事情を利用して訴外会社に移出した三貫匁入氷冷蔵器も右の非課税の三貫匁入氷冷蔵器であると偽つて物品税の申告をなさず、また博多税務署収税官吏の実地調査に際しても前記課税品の代りに一二立方尺以上の容積を有する非課税品を提示してこれが前記訴外会社の注文により製造移出した三貫匁入氷冷蔵器である旨虚偽の申述をなし別紙(二)記載のとおり物品税をほ脱していたものである。

三、そこで福岡国税局長は、原告のかかる行為は物品税法第一八条第一項第二号に該当するものと認め、国税犯則取締法第一四条第一項の規定に基き昭和三三年一一月一三日付をもつて原告に対し前掲別紙(二)記載の罰金相当額及び書類送達費金九五円を納付すべき旨通告するとともに、博多税務署長は同月一九日原告に対し金四二万四、〇六〇円の物品税を課する旨の決定をなし同月二四日付をもつてその旨原告に納税告知をした。

これに対し原告は昭和三四年二月二八日より三回に亘り右物品税を、同年八月二〇日より三回に亘り右税にかかる利子税金二万一、六七〇円及び同延滞加算税金二万〇、二八〇円を、前金相当額については、同年七月一日に、昭和三二年四月(前金相当額金二万円)、同年八月(同金一、一〇〇円)、同年一一月(同金一一〇〇)円、昭和三三年一月(同金一、一〇〇円)、同年二月(同金二、四〇〇円)、同年八月(同金一、一〇〇円)の各犯則行為について合計金二万六、八〇〇円を納付した。

四、訴外福岡国税局長ならびに同博多税務署が右各処分をするに至つた調査経過は次のとおりである。

原告が物品税をほ脱している疑があつたので福岡国税局係官が調査したところ、原告と訴外会社との間に締結された「売買並びに抵当権設定契約書」の添付図面に記載された氷三貫匁入氷冷蔵器の規格は別紙(一)記載の規格と同一であり、この規格は原告が所持していた雑記帳に記載されていた規格とも一致し、また原告の工場にあつた訴外会社に移出すべき三貫匁入氷冷蔵器、訴外会社の依託により原告の倉庫に納められていた三貫匁入氷冷蔵器、訴外会社の取引先である訴外梅本氷室から買受けた訴外豊田小二郎が所持した氷冷蔵器をそれぞれ実測したところいずれも前記契約書に記載された規格と一致した。

かくして原告が訴外会社の注文により移出した三貫匁入氷冷蔵器について物品税をほ脱していることが判明したので、訴外会社が所持していた冷蔵庫販売先別仕訳帳、原告が所持していた売上簿、出荷案内複写簿、送り状、納品書、受領証等の帳簿書類を調査し、原告の物品税ほ脱の回数、数額等を正確に把握した後、原告及びその使用人について事実聴取を実施したところ、原告の二男で且つ原告の事業を補佐していた訴外平井政信はもちろん、原告自身もそれぞれ本件物品税ほ脱の事実、その回数価格等について福岡国税局係官の調査結果に誤りがないことを認めるに至つたものである。

五、なお国税犯則取締法第一四条第一項の通告処分の性質は、国が犯則者との間においてなす「私和」であると解されるところ原告は本件通告処分に対し、前記の各犯則行為について任意にこれを履行したので、原告と国との間に一種の和解が成立したと同様の効果が生じたものと解すべきであるから、右通告処分と原告のその履行によつて成立した法律関係が無効でない限り前記罰金相当額の返還を求めることはできない。

六、以上の次第で本件通告処分及び課程処分には何らの瑕疵もなく、通告処分に対する原告の履行にも無効とされるべき事情は認められないので原告の本訴請求はいずれも失当である。

と述べた。

証拠として原告訴訟代理人は甲第一ないし第五号証、第六ないし第八号証の各一、二を提出し、証人平井義明、原告本人(第一、二回)の各尋問を求め、乙第六号証の一は成立ならびに原本の存在とも不知、同号証の二は成立ならびに原本の存在とも否認するその余の乙号証の成立は認めると述べ、被告指定代理人は乙第一号証の一、二、第二ないし第五号証、第六号証の一、二、第七、第八号証を提出し、証人広松八郎、同平田松雄(第一、二回)、同伊勢博治、同鹿子島治雄の各尋問を求め、甲第六号証の一及び第八号証の二は不知、その余の甲号証の成立は認めると述べた。

理由

原告が訴外博多税務署長の原告に対する昭和三三年一一月一九日付物品税賦課決定(同月二四日付納税告知)に基き物品税金四二万四、〇六〇円及びこれに対する利子税延滞加算税金四万一、九五〇円を訴外福岡国税局長の原告に対する同月一三日付通告処分に基き罰金相当額金二万六、八〇〇円をそれぞれ昭和三四年八月頃までに納付したことは当事者間に争いがない。

物品税法(昭和三四年法律第一五〇号による改正前の法律)第一条第一項、同法施行規則第一条第一項(同規則別表第二種丁類第二〇号)の規定によれば外側の体積が一六七立方粉を超え三三三立方粉未満の氷冷蔵器は昭和三二・三三年当時は物品税の課税物件であり、製造者はこれが移出を申告して法定の物品税を納付しなければならない定めであつたところ、いずれも成立に争のない乙第一号証の一、二第二号証ないし第五号証、第七号証及び右第七号証並びに証人平山松雄の証言により成立ならびに原本の存在を認むべき乙第六号証の二、証人広松八郎、同平田松雄(第一、二回)の各証言を綜合すれば、原告は昭和三二年四月から昭和三三年八月までの間に前記課税物件に該当する別紙(一)記載の規格の氷冷蔵器三六九個(明細は別紙(二)記載のとおり)を製造移出しながらこれを非課税品として物品税の申告をなさず、これに対する物品税をほ脱していたことが認められ、右認定に反する証人平井義明の証言及び原告本人尋問(第一、二回)の結果は前掲各証拠に照らしたやすく信用できない。

また前認定に供した証拠によれば、福岡国税局係官は原告の本件物品税ほ脱事件の調査にあたり、訴外日本冷蔵株式会社福岡支社及び原告の書類帳簿を調査し、原告の工場、倉庫等で製品の抽出実測調査をなし、右訴外会社の係員、原告及び訴外平井政信について事実聴取をするなどの調査をなし、福岡国税局長ならびに博多税務署長は右調査に基き本件各処分をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は乙第二、第四号証の質問てん末書に署名押印したことはないとか、あるいは係官に脅迫されてやむなくこれに迎合して供述したのであるとか供述しているが、右供述は証人広松八郎、同平田松雄の各証言に照らしにわかに措信し難くその他国税局係官の本件犯則事件調査に何らかの違法があつたとうかがわせるに足る証拠はない。

結局本件の全証拠によるも福岡国税局長及び博多税務署長の原告に対する本件各処分を違法とするような瑕疵は何ら認められないのでこれが違法を前提とする原告の本訴請求はいずれも理由がない。

よつて原告の請求はいずれもこれを棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江崎弥 裁判官 鍋山健 裁判官 西出元彦)

別紙(一)

三貫匁入氷冷蔵器規格

高さ 二、九尺 幅 一、八五尺 奥行 一、五尺 体積 八、〇四七五立方尺(約二二四立方粉)

〈省略〉

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